ひかげのかずら (日影蔓・日蔭蔓) 

学名  Lycopodium clavatum(L. japonicum)
日本名  ヒカゲノカズラ
科名(日本名)  ヒカゲノカズラ科
  日本語別名  キツネノタスキ、テングノタスキ、カミダスキ、ウサギノタスキ、ヤマウバノタスキ、ヒカゲ、ヤマカズラ(山蔓)、カゲ(蘿)
漢名  石松(セキショウ,shísōng)
科名(漢名)  石松(セキショウ,shísōng)科
  漢語別名  伸筋草(シンキンソウ,shenjincao)、金毛獅子草、金腰帶、獅子草
英名  
2013/08/12 長野県北八ヶ岳(白駒池) 

2008/08/29 群馬県浅間高原

 ヒカゲノカズラ科 Lycopodiaceae(石松 shísōng 科)は、世界に3属 約400種がある。

  コスギラン属 Huperzia(石杉屬)
  ヤチスギラン属 Lycopodiella(小石松屬)
  ヒカゲノカズラ属 Lycopodium(石松屬)
   
 ヒカゲノカズラ属 Lycopodium(石松 shísōng 屬)には、約40種がある。

  ミヤマヒカゲノカズラ L. alpinum (Diphasiastrum alpinum;高山石松)
    ニイタカヒカゲノカズラ var. transmorrisonense(L.veitchii)
  スギカズラ L. annotinum (多穗石松・單穗石松・蔓杉・分筋草・二年石松・杉葉蔓石松)
    タカネスギカズラ var. acrifolium(L.neopungens)
    ヒロハノスギカズラ var. latifolium
  イヌヤチスギラン L. carolinianum
  ヒモヅル L. casuarinoides (石子藤石松・石子藤・舒筋草・伸筋草・千金草・木賊葉石松)
  ミズスギ L. cernuum (Palhinhaea cernua;舗地蜈蚣・垂穗石松・馬鹿角・過山龍・
         燈籠草・筋骨草)『中薬志Ⅲ』p.98
  ヒメスギラン L. chinense (Huperzia chinensis;中華石杉・中華石松)
  L. clavatum (石松・伸筋草・獅子尾)
    エゾヒカゲノカズラ var. asiaticum
    ヒカゲノカズラ var. nipponicum(var.wallichianum, var.aristatum,
         L.pseudoclavatum, L.japonicum)
  アスヒカズラ L. complanatum (Diphasiastrum complanatum;地刷子石松・扁枝石松・
         掃天晴明草・舒筋草)
  マンネンスギ L. dendroideum(L.juniperoideum, Dendrolycopodium juniperoideum,
         L.verticale, L.obscurum f.strictum;玉柏・玉枝石松・樹状石松・伸筋草)
  ナンゴクアスヒカズラ L. multispicatum
  L. sitchense
    タカネヒカゲノカズラ var. nikoense(L.alpinum var.nikoense, L.nikoense)
  ニイタカアスヒカズラ L. yueshenense
   
 シダ植物については、しだを見よ。
 和名ヒカゲノカズラとは、むかし新嘗祭などの神事に、笄の左右に懸けて日影を遮るのに用いたことから。
 源順『倭名類聚抄』(ca.934)蘿に、「日本紀私記云、蘿、比加介」と。
 小野蘭山『本草綱目啓蒙』17(1806)石松に、「キツネノヲガセ
新校正 ヒカゲノカヅラ カミダスキ サガリゴケ新古今栄雅抄 ヒカゲグサ ヤマカヅラ倶ニ同上 キツネノタスキ但州 ヤマウバノタスキ豫州 シゝノネバ土州 キツネノケサ豊前 ハイタロ越前 サルヲガセ テングノタスキ江戸」と。
 広く北半球の温帯・暖帯に分布。
 中国では、全草を伸筋草と呼び、胞子を石松子と呼び、それぞれ薬用にする。『中薬志Ⅲ』pp.95-100 
 『古事記』上巻天の石屋戸の伝説に、天照大御神(あまてらすおおみかみ)が天の石屋戸(あめのいはやと)に隠れたとき、天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、「天の香山(あまのかぐやま)の日影(ヒカゲノカズラ)を手次(たすき)に懸けて、天の真拆(マサキ)を縵(かづら)と為(し)て、天の香山の小竹葉(ささば)を手草(たぐさ)に結ひて」踊ったという。(『日本書紀』巻1神代上 第7段「天石窟(あまのいわや)」に、ほぼ同様の伝説が載る。) 
 『万葉集』に、

 あしひきの やまかづらかげ
(山蔓蘿) ましばにも
   え
(得)がたきかげ(蘿)を お(置)きやか(枯)らさむ (14/3573,読人知らず)
 足曳の 山縵
(やまかづら)の児 今日往くと 吾に告げせば 還り来ましを
 足曳の 玉縵の児 今日の如 何
(いづれ)の隈(くま)を 見つつ来にけむ
     
(16/3789;3790, 読人知らず)
 見まくほり おも
(思)ひしなへに かづら(蔓)かけ
   かぐはし君を あひ見つるかも
(18/4120,大伴家持)
 あしひきの やました
(山下)日影 かづら(蘰)ける
   うへ
(上)にやさらに 梅をしの(賞)はむ (19/4278,大伴家持)
 

   ときはなる 日かげのかづら けふしこそ 心の色に ふかく見えけれ
     
(藤原師尹(もろまさ,920-969)「五節の所にて閑院のおほい君(源宗于女)につかはしける」) 
 

 清少納言『枕草子』第66段「草は」には「日かげ」などとある。
 なお、この日かげは、平安時代になると糸を組んだもので代用するようになった。
 藤原道綱母『蜻蛉日記』に、
 入道故中将(藤原義懐,1057-1008)、ためまさの朝臣のむすめをわすれたまひけるのち、ひかげのいと、「むすびて」とてたまへりければ、しれにかはりて、
  かけてみし すゑもたえにし ひかげくさ
   なにによそへて けふむすぶらん
 このひかげについて『雅亮装束抄』に、
 かぶりにひかけといふものを左右のみみのうへにさげたり。かぶりのこじのもとに、ひかげのかつらといふものをゆひて、しろきいとのはしなど、ほどからくみなしてあげまきになをむすびさげて、かたかたに四すぢづつかぶりのつのをはさめて、まへにふたすぢ、うしろにふたすぢ、左右にさげたるなり、云々。
              
(松田『増訂 万葉植物新考』引)

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